農業にまつわる風評被害。東日本大震災後の福島・農薬のグリホサート・かいわれ大根など

目次

農業に多い風評被害はなぜ起こる?

農業など、口に入れるものに対して多い「風評被害」。食の安全性に関わるものであれば、ニュースや噂などに敏感な人は多いでしょう。しかしそれが事実無根であった場合、風評被害を受けた側のダメージは計り知れません。ある日突然、風評被害により自社の商品やサービスが売れなくなるのです。イメージは低下し、消費者から色眼鏡で見られるようになります。風評被害が一度広まると、経済的損失は免れません。

では、なぜこのような風評被害は起きるのでしょうか?風評被害とは、あるきっかけを元に事実ではない情報が広がり、その結果もたらされる社会的・経済的被害のことです。きっかけは大きく分けて「事件や事故に基づくもの」「メディアの発信によるもの」「個人のデマに基づくもの」の3つに分けられます。どのきっかけだとしても、最近はソーシャルメディアで風評が拡散してしまうことが多いでしょう。

特に「事件や事故に基づくもの」は避けがたく、被害も大きくなりがちです。風評被害で最も代表的な例は、東日本大震災によるものでしょう。

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風評被害を食い止め、リスクを未然に防ぐ

福島の農業を襲った東日本大震災後の風評被害

2011年に起きた東日本大震災。震災後の福島第一原発からの放射能漏れにより、福島県の農作物全体が風評被害を受けています。10年以上経った今も、福島県産の農産物や食品を買い控える人が多く、その経済被害は甚大です。

福島県は国のガイドラインに基づき、農作物の出荷時に放射能検査を行っています。そのため、福島県産であっても出荷されているものは安全ということです。しかし、一部の消費者は今でも「福島県産」というだけで購入をためらっています。国による厳しい検査基準を通ったものでさえ、「危険である」というイメージを払拭できていないということです。

漫画「美味しんぼ」で、福島原発を訪れた主人公が鼻血を出すシーンも話題になりました。「放射能の影響だ」と騒がれたのです。しかし実際には、漫画の中で描かれた放射能量であれば、1時間滞在しても主人公が受ける被ばく量は少ないものでした。その被ばくが原因で鼻血を出すことは、科学的にはあり得ないことなのです。放射能の影響というものを、人々がいかに「イメージ」だけで恐れているかがわかるでしょう。

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福島産の農産物に対する風評被害は10年経った今も続いている

東日本大震災後の風評被害に立ち向かう福島の農業

福島県は桃の産地として知られ、全国2位の出荷量を誇ります。特に県北部の伊達地域の桃は品質評価も高く、皇室への献上桃として有名です。しかし、原発事故の風評被害により大打撃を受けました。

震災前は1kg約420円だった市場の取引価格は、震災後一気に250円前後に下落。伊達地域全体の売上は3割以上減ってしまいます。そこで、風評被害に立ち向かうため、地域1500戸の桃農家総出で樹皮の洗浄を始めました。樹齢の高い木は放射性物質が付着しやすいため、新しい苗への植え替えも進めます。さらに平成24年の出荷分からは、外部機関に委託し自主検査を始めました。このような徹底した検査と情報公開により、平成24年には価格も1kgあたり約360円にまで回復したのです。

また福島県では、2012年より「コメの全量全袋検査」と「牛の全頭検査」を行っています。これは「世界一厳しい基準と検査」と言われ、信頼回復の基盤となりました。

グリホサートやかいわれ大根…その他の農業にまつわる風評被害

農業の風評被害は福島県だけではありません。農薬の「グリホサート系除草剤」も大きな風評被害を受けています。店頭で手軽に手に入れることができ、効果も高いグリホサート系除草剤グリホサートは、世界各国の機関にその安全性が認められ、150ヶ国以上で農薬として登録されています。しかし、その安全性については多くの誤った主張が拡散されているのです。

「O157食中毒事件」を覚えているでしょうか?かいわれ大根が、食中毒の元になったとされた事件です。事件の翌年には、かいわれ業者が国を相手に損害賠償の訴訟を起こし、勝利しました。明確に「かいわれ大根が原因ではない」とされたのにも関わらず、「O157といえばかいわれ」というイメージは残り続けています。

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安全なはずのグリホサートに対する風評被害が広まっている

農業の風評被害を最小限に食い止める工夫を

風評被害が起こった原因を突き詰めると、多くは「情報が不確か」な状態で発生していることがわかります。その不確かな情報がイメージとしてひとり歩きし、風評被害が拡散されるのです。風評被害は発生したらすみやかに対処し、被害を最小限に食い止める工夫が必要でしょう。

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