農業、農業用水が世界を救う? かんがい技術の国際貢献と水資源の課題

目次

人の生活を支える「農業用水」とは農業、農業用水が世界を救う? 

人が生活を営み、生産活動に勤しむうえで「水」は欠かせないものです。飲食や衛生で使う生活用水、製造過程で使用する工業用水、そして農業に用いる農業用水と、水の使い道はさまざま。中でも、世界で最も使用量が多いのは、農業用水です。

農林水産省の調べによると、2018年における日本全国の水使用量は年間800億平方メートルで、農業用水は6割強を占めています。農業用水は、稲作の「水田かんがい用水」、野菜や果樹などを生育する「畑地かんがい用水」、そして家畜を飼育するための「畜産用水」に分けられます。農業用水は、自然の雨を有効利用するのが一般的です。不足分は、水路を掘り、河川や地下水、貯水池などから水を引いて、まかないます。

上流から下流へ。多面的に無駄なく利用される農業用水

農業用水は、水道水のように使って“終わり”とはなりません。農耕地から水路へ流れ出た水は、自然界の水循環システムに沿って、無駄なく利用されているのです。例えば畑地で水がまかれた後、多かった分は河川や地下水に流れます。そして下流で、また農業用水として、はたまた都市の生活用水として利用されるのです。

ほかにも、以下のようなものに農業用水は再利用されています。

・農機具や作物の洗浄

・防火用水:火災発生時に使われる

・消流雪用水:道路の除雪、屋根雪の処理に使われる

・水の貯留:上流域にある水田は雨水を貯留する働きをもつ

・生態系保全:用水路はフナ、ドジョウ、メダカといった生物の生息域となる

・親水空間:水遊びができる空間、小川が流れる公園など人が水と親しむ空間をつくる

・景観の形成:農村の美しい景観をつくる など

かんがい技術は食糧不足を救う一方で、農業用水の使用量を増やす要因になる

「食糧不足」と「水不足」。農業用水の貢献と抱える課題

農業用水は、人の食生活を支える大事な水です。しかし、水資源には限りがあります。地球に存在する13.9億リットルの水のうち、人が使用できる淡水は全体の0.008%、10.5万リットルにすぎません。また、国連によると世界人口は増え続けており、2050年には世界の人口は93.2億人になると予測されています。人口が増えれば、水資源の需要は増すでしょう。今や「水不足」は、世界的な課題として掲げられているのです。

では水不足解決のために、農業用水の使用量を抑制することは、できるのでしょうか。抑制するには、「食糧不足」の課題を解決しなければいけません。

人口増加に加え、社会経済が発展して生活水準が向上すると、人々の食生活は豊かになります。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界全体の年間穀物消費量が2020年には約18トンだったのに対し、2030年には約28トンに達すると試算されています。一方、穀物の耕地面積は1990年頃まで増加傾向だったものの、現状は横ばいです。つまり今後、消費に対して生産量が追い付かなくなることが懸念されます。

現状の面積のまま、農地の生産性を向上するには、農作物に過不足なく水を供給するかんがいの整備が有効です。世界のかんがい耕地面積は、過去約40年間で、毎年300万ヘクタール以上も拡大しています。しかし、かんがい技術を導入すると、農業用水の使用量が増えてしまうのです。今後私たちは、この2つの問題を解決する循環型のシステム構築に知恵を絞らなければいけません。

世界の農業に貢献している日本の農業用水技術

世界各国に貢献した日本の農業用水技術

世界でかんがいの整備が求められている中、日本の農業用水技術が役に立っているのを知っていますか。1990年代から累計すると、日本は、水と衛生分野における援助実績数において世界一を誇っています。これまでアジア地域、そしてアフリカなどの乾燥地域で、農業用水の安定的利用のための支援を行ってきました。どんな国際貢献を行っていたのか、具体的に見てみます。

【アジア地域でのかんがい用水路整備】

・効率的に農業用水が利用できるように施設の維持管理技術と水管理の知見を伝える

・老朽化した施設の適切な修繕技術、長寿命化するための技術を伝える

・かんがい施設の動力源として、自然エネルギー(小水力・太陽光・風力など)で電力を供給。維持管理にかかわる費用負担を軽減に努める

【乾燥地域での農業用水確保】

・農牧林業技術を伝え、農業・放牧業を定着させることで砂漠化を防止する

・水路が確保できない地域で地下ダム、井戸を整備して生活用水・生産用水を確保する

・小規模分散型の汚水処理システムを開発。処理水を農業用水として再利用して循環型水利用を実現する

水資源の適切な使用のために、できることを考えよう

古代四大文明は、かんがい技術を発展させ、大河という水資源を制した勝者として栄えました。しかしSDGsを目指す今、地球上のすべての人々が水資源を適切に使用できるよう、持続可能な水循環システムの構築が急がれます。

 

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