パンに換算するとどのくらい? 許容できるグリホサートの摂取量とは

目次

問題なのは毒性よりも摂取量。許容できるグリホサートの量はどれくらい?

日本に流通している小麦の約9割は輸入で、その半数をアメリカが占めています。アメリカの小麦は主に不耕起栽培で、グリホサート系除草剤に頼っています。そのため、「小麦粉製品からグリホサートが検出される」、「輸入小麦が毒」といった噂が流布しているようです。

日本でも世界でも、農業では農薬を使用しています。農薬を使っている限り、農作物にはごく微量でも農薬が残るので、消費者の不安はなかなか消えません。しかし実は農薬が“どんな毒性を持っているか”よりも、“どれくらい摂取したか”が問題ということを知っていますか。

農薬を含む、化学物質には「用量作用関係」が存在し、摂取量と比例して毒性が出ると考えられています。例えば、加工食品によく含まれている塩化ナトリウムは化学物質の食塩です。1日5~7gの摂取であれば問題ありませんが、一度に200~300gも摂れば死に至るでしょう。このように、化学物質は大量に摂取すればヒトに悪影響を及ぼしますが、少量では問題ないのです。

そのため、日本政府はヒトの細胞に作用する量の手前に、農薬ごとの「限界量」を設けました。これが「一日摂取許容量(ADI)」です。ADIは、人が一生涯にわたり、毎日その物質を摂取しても毒性のない量として定めています。グリホサートでいえば、ADIは体重1kgあたり1mg/日です。体重50kgの人であれば、一日50mgまで摂取しても問題ないとしています。

グリホサートの一日摂取許容量を、パンで計算してみると非現実な量になった

グリホサートの一日摂取許容量に達するには?パンで計算してみた

ではどれくらいの小麦粉を摂取すると、グリホサートの一日摂取許容量に達するのでしょうか。先述のADIを、小麦粉からつくられるパンに換算してみましょう。国内のメディアや市民団体が独自に調査し、市販のパンから検出されたグリホサート量はパン1kgあたり、0.05mg~1.1mgでした。そこで最大検出量の1.1㎎分のグリホサートを検出したパンで計算してみると、以下のような結果が出ました。

・体重50kgの大人(ADI 50mg):約45.5kg分のパン(食パン1斤を約134個)/1日

・体重17kgの子ども(ADI 17mg):約15.5kgのパン(食パン1斤を約45個)/1日

上記の計算を見ても、1日に食べるパンの量としては現実的ではないことがわかります。分析法が進歩し、ごく微量でも化学物質を検出できるようになった今、消費者の不安は絶えないでしょう。しかし用量作用関係やADIを知れば、冷静に判断できるかもしれません。

食品におけるグリホサートの「残留基準値」は?

残留農薬の数値が低ければ、一日摂取許容量に達する可能性は低いかもしれません。しかし、食品の残留農薬量に関する規制はあるのか気になるところです。日本では、食品衛生法のもと「ポジティブリスト制度」を採用しています。これは、すべての農産物、畜産物に、各農薬の「残留基準値」を設定し、基準値を上回る場合は出荷停止とする決まりです。

残留基準値とは、ADIを超えないよう、農産物ごとに残留が許される量として設定されています。「ppm」という百万分率で示されます。グリホサートを例にすると、30ppmの小麦であれば1kgに対して30mgが許容範囲です。食品の中には、小麦のように長期間にわたって摂取する可能性がある食品もあります。その場合は、各食品から農薬の摂取量を計算したうえで、残留基準値の値がADIの80%を超えないように設定されます。

各食品の残留基準値は、日本人の食生活の変化や状況、国際情勢に合わせて変化します。しかしトータルでADIの上限を超えることがないように調整されるので、安心してください。

国内生産品だけでなく輸入品に対しても自治体や国が日々検査を実施している

グリホサートを含む残留農薬はどのように検査されるのか

ポジティブリスト制度は、国内生産のものだけでなく、輸入品に対しても残留基準値を定めています。また、規制するだけでなく、違反がないように自治体や国は日々検査を行っています。どのような検査か説明しましょう。

国内に流通する食品は、製造・加工施設で、または市場などの流通拠点で、抜き取り検査をしています。国内で違反が確認された場合には、その食品を廃棄させたり、原因究明や再発防止を指導したり、その措置内容は厳格です。

輸入食品の場合は、輸入時に検疫所へ届け出されたものの中から、モニタリング検査を行っています。違反が確認されると、その食品が輸入される都度検査を行うなど、検査の頻度を高めることもあります。

一日摂取許容量で守られている日本の食

グリホサートを含む農薬の残留を危険視する声は絶えません。しかし、少なくとも日本ではポジティブリスト制度がある限り、危険な量の農薬を口にすることはないでしょう。噂を鵜吞みにせず、正しい知識を得て、安心して食事を楽しんでください。

 

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