助成金もある海外農業研修「アグトレ」とは
就農する前に、世界の農業を見てみたい。そんな方は「アグトレ」への参加がオススメです。「アグトレ」は公益社団法人 国際農業者交流協会が主催する海外農業研修のことです。アメリカ・デンマーク・ドイツ・スイス・オランダ・オーストラリアといった農業先進国に長期滞在し、農業を学ぶことができます。
「アグトレ」最大の魅力は、海外で実践的な専門知識や最先端の技術を学べる点です。ただ受け身で知識を習得するのではなく、現場での経験を積むことで、帰国後、現実課題に対応できる人へと成長できるでしょう。また、研修先では農業に関する知識だけでなく、語学力やコミュニケーション能力を養うことができます。異国の文化に触れ、国境をまたいだ交友関係が広がれば、多様な価値観に対する理解が深まります。
ただし、気になるのが費用面ですよね。農林水産省の農業教育高度化事業は、「将来的に農業に従事する意思があると宣言する」研修生には助成金(最大60万円)を支給します。また、海外での実地研修では手当が支給されるので、現地での生活費に充てることができます。
「アグトレ」の研修先は?各農業国の特徴と研修内容を見てみよう
「アグトレ」が研修先に指定しているのは、農業大国もしくは農業先進国として知られている国々です。各国の農業の特徴と、研修内容と併せて見てみましょう。
【アメリカ】
・農業の特徴:広大な農地を大型機械で耕作する大規模農業が特徴。小麦やトウモロコシなどの穀物や畜産物の生産が盛んで、世界各国に輸出する。近年はグリホサート系除草剤を利用した不耕起栽培に力を入れるなど、サステナブルな農業を目指している。
・研修内容:ワシントン州で約2ヵ月間、寮生活をしながら基礎学習として英語(スペイン語)、アメリカ文化、農業、機械操作、農場での生活などを学ぶ。配属農場での約13カ月間、実務経験を積んだ後、大学の農学部にて農業の専門的な内容を約2カ月間学ぶ。
【オーストラリア】
・農業の特徴:国土の半分が農用地で、オージービーフやラム肉、牛乳、チーズ、小麦、コメ、メロン、ブドウなど、多種多様な農作物を栽培。政府や民間企業は、干ばつに強い品種の開発やスマート農業の導入など、積極的に新しい試みに取り組む。
・研修の特徴:クイーンズランド州にて約1ヵ月、英語、オーストラリア農業といった基礎学習を受けた後、約10ヵ月にわたって農場実習を行う。農業技術、ビジネスの手法、輸出戦略などを学ぶことができ、国際競争力のある農業者を目指す人に適した実習となる。
【ヨーロッパ】
・農業の特徴:多くの国が隣接するヨーロッパの農業は、互いに共通点を持ちつつ、気候や地理によってさまざまな発展をみせている。研修は主に以下の4ヵ国で実施している。
デンマーク:畜産業に優れた国で、農家同士の迅速な情報交換システムが構築され、強力なマーケティング企業が農業を盛り上げている。
ドイツ:国土の半分が農耕地で、畜産はもちろん、野菜や果樹の生産も盛ん。
スイス:環境意識の高い国で、ほとんど全ての農家が環境保全型農業を行っている。
オランダ:施設園芸と酪農の王国。スマートアグリ、フードバレーなど最先端の取り組みを採用している。
・研修の特徴:国によって研修日程・内容が異なる。代表的なスケジュールでは、渡航後の2~3週間は語学研修を行った後、自分の専門分野の農場で実習研修を行う。期間中は、セミナーや会合に参加するなど、現地農業を学びながら、農業青年同士の親睦を深める取り組みを行うことも。
帰国後の進路は?
海外での研修を終えた後、先輩たちの進路はさまざまです。農業法人、農業関連企業や教員への就職、自家農業への就農が目立ちますが、農業以外の分野でも活躍している人もいます。
「アグトレ」には、家業の後継者で「継ぐ前に海外を見てみたい」と考えて応募する人が多くいます。心の準備期間として研修に参加し、“俯瞰して”日本の農業を見てみたいという気持ちがあるようです。もしくはもっとシンプルに、“農業を共にがんばる仲間と出会いたい”と考え、参加する人もいるでしょう。
研修後はそのまま就農する人もいれば、現地農家の意識の高さに面を食らい、MBAや公認会計士といった資格取得に打ち込み、起業する人もいます。どのような目的意識を持って参加し、現地でどのような刺激を受け、将来どのように活かすかは、参加者次第と言えるでしょう。
アグトレ以外にも!「ワーキングホリデー」を利用した海外農業研修
「アグトレ」以外の、海外で農業を体験する方法として「ワーキングホリデー」があります。ワーキングホリデーとは、日本と協定を結んだ29ヵ国(2022年時点)に、1~2年と長期滞在できるビザです。18~30歳までの人を対象とした制度で、就学、観光、労働が許可され、現地で生活費を稼ぐこともできます。
ビザを取得し、外国の農場や牧場で農業を体験することもできます。「ファームステイ」といって、滞在目的に合わせたプログラムが3種類あるので見てみましょう。
・ホリデー型:滞在期間が短く、リフレッシュを目的とした観光がメインのプログラム。農業はあくまで体験できる程度。
・エクスチェンジ型:週5日、約半日程度、ホストの農家で仕事をする代わりに、滞在費や食費が無料になるプログラム。
・ジョブ型:仕事をもらい、給料を得るプログラム。農業に関するスキルが必要な場合もあり。悪質な労働環境で働かされたり、トラブルに巻き込まれたりしないように、事前の情報収集が肝心。
ワーキングホリデーには助成金がなく、ホリデー型やエクスチェンジ型は渡航費以外に現地での生活費・雑費を事前に準備する必要があります。また農業大国のアメリカは提携国ではないため、ビザを利用できないので注意しましょう。
最先端を学べる海外農業研修にチャレンジしよう
農業青年たちが思い切ったスタートを切るために、海外農業研修は存在します。日本の食を支えるべく、海外の優秀な経営者のもと、思う存分、最先端の農業を学びましょう。