2050年、世界の人口は100億人に達すると予想されています。地球を破壊することなく世界に食料を供給するには、よりスマートな農業を行う必要があるでしょう。
有機農業の研究
カナダのマニトバ州南部にある都市、ウィニペグの南にある農場で、大規模かつ長期的な科学実験が行われています。マニトバ大学で農作物と自然システム農業の研究者兼教授であるマーティン・エンズによって運営されている10ヘクタールの研究農場では、小麦、亜麻、エンドウ豆の列がアルファルファと混在して植えられています。
エンズ教授と彼のチームは過去30年間、マニトバ州グレンリアにあるこの農場で、有機農業と従来の化学肥料を多用した農法を比較しながら、代替的な作物の栽培方法を探ってきました。
アルファルファ
アルファルファのような飼料用作物を使うと、土壌に窒素が行き渡るので、健康な状態を保つために必要な肥料の量が通常の半分以下になります。またアルファルファは根が深いため、土壌の水はけを良くし雑草の繁殖を抑えることができるのです。結果として、最大の収穫量を得るために必要な化学物質の量を減らすことができます。
この農場では、化石燃料由来の合成肥料、殺虫剤、殺菌剤など、現代の工業的農業が依存する化学物質の投入を最小限に抑えながら、作物の能力を最大限に引き出すことに重点を置いています。
2050年には100億人に達し、食料需要が56%増加すると予測される世界人口の増加に対応しながら温室効果ガスの排出を抑制するには、こうした取り組みが重要な鍵となでしょう。
食糧システムの限界と地球温暖化
専門家の中には、食糧システムはすでに限界に達していると指摘する人もいます。予測される人口増加に加え、農業はすでに労働力の減少と高齢化、耕作地の減少などに直面しています。そして農業は気候変動の影響を受けるだけでなく、その原因ともなっているのです。
世界の農業活動は地球温暖化の主な原因となっており、温室効果ガスの約3分の1を占めています。また農業は、生物多様性の損失をもたらす世界最大の要因であり、水質汚染の最大の原因でもあると言われています。
カナダのゲルフ大学アレル・フード研究所のエヴァン・フレイザー所長は「これらのことを総合すると、現在の生産システムでは100億人を持続的に養うことはできません。土地をもっと倹約し、生産性を高める必要があります」と言います。
化学農業から生物農業へ
そこで、グレンリア農場で行われているような科学と実験がますます重要な役割を果たすようになりました。
「自然界では物事は多様です。栄養素や炭素はリサイクルされます。そして自然界では、一年生植物とは対照的に多年生植物が支配的なのです」と語るエヴァン教授は、農業は収穫量を最大化するために自然を支配しようとする「コマンド&コントロール」システムへの依存から脱却する時期にあると言います。
「私たちは機械的な時代から化学的な時代へと進み、そして今、農業は生物学的な時代へと突入しています。どうすれば自然をマネて問題の解決策を生み出せるかを考えています」。
実験が行われているのはグレンリアの畑だけではありません。カナダ全土で、農家は時代の変化に合わせて作物の栽培方法を変えています。新しい種類の作物や輪作を試みたり、動物を使って土壌の健康を維持したり、均一な畑だった農地に木や自然の草を復活させ、土地の生物多様性を維持したりしているのです。
遺伝子編集技術「CRISPR」
科学者が動物、植物、微生物のDNAを比較的簡単に変更できる強力な遺伝子編集技術であるCRISPRの登場により、特定の遺伝的属性のオンとオフを切り替えることができるようになりました。
例えばCRISPRは、保存期間が長く飽和脂肪酸が少なく、トランス脂肪酸のない大豆油を作るために使われています。また、ある種のキノコの褐変プロセスを遅らせることや、トウモロコシの実の数を増やすのにも使われています。CRISPRを使えば、何年にも渡る実地試験をはるかに短い期間とコストで実現することができるのです。
垂直農法
垂直農法は、野菜(通常は成長の早い葉物野菜)を完全に制御された環境で生産するもので、低コストのLED照明と水を再利用できる水耕栽培システムを使用します。屋内で生産することにより農薬が不要になり、1年に何度も生育期を迎えることができ、気候変動に対するリスクヘッジにもなります。
小麦、トウモロコシ、大豆などの穀物は広大な土地を必要とするため、食糧生産が完全に屋内化されることはありませんが、新しい技術革新は、より多くの人々に食糧を供給するために、私たちの武器になる別のツールを提供するでしょう。
このような様々な取り組みにより、私たちの農業革新は未来のために前進を続けています。