改正種苗法の背景
2021年4月に施行された改正種苗法。数々の著名人が反対の声を上げたことで、2020年に大きな話題になりました。
そもそも種苗法というのは、農作物などの種苗の開発者の権利を守る法律です。1978年に制定されました。新しい品種の開発者は「種苗法」に基づき、品種登録をすることができます。登録された品種は、育成者権(知的財産権の1つ)により最長25~30年間保護されます。それにより、開発者は独占的に種苗を販売する権利が認められるのです。農家は対価を開発者に支払い、栽培や出荷が認められます。要するに、植物の種の特許制度のようなものです。
なぜこの種苗法が改正されたかというと、日本で開発された優良品種が海外に流出してしまう事態が多発したからです。代表的な例としては、高級ブドウのシャインマスカットがあります。もともと日本で開発され、2006年に品種登録されたものでした。しかし近年、中国や韓国へ流出し、無断で栽培されていることが確認されたのです。このことによる日本の損失は、数千億円とも言われています。
シャインマスカットの輸出先で、中韓産の方が安価であるため日本からの輸出拡大を阻害しているのです。種苗法では、正規販売された後の海外持ち出しが違法ではありません。そのため政府は、これを規制するために改正種苗法を導入しました。
改正種苗法のポイント
改正のポイントは大きく分けると2点あります。1つ目は、栽培地域の指定です。改正により、品種の開発者が、種苗を輸出する国や栽培地域を指定することができるようになりました。これに違反すると刑事罰や損害賠償の対象になります。
2つ目は、自家増殖の許諾です。今までの種苗法では、新品種を購入した農家が、育てた植物から種を採取し、繰り返し利用することができました。しかし改正により、そのような自家増殖を行う際には開発者の許諾が必要になったのです。
改正種苗法「反対派」の主張
改正に反対する人たちは、自家増殖のための許諾料が高額になり、農家の負担が増すことを懸念していました。登録品種すべてに許諾が必要で、種を使うたびに「ロイヤリティ」を払う必要性が出てくるからです。これは農家の経営を圧迫する可能性があるでしょう。
改正反対派による強固な反対は、SNSによって拡散されました。改正種苗法の目的は、種苗開発者の権利保護です。しかし、反対派はこれと「種子法の廃止」をセットで論じる人が多い傾向にあります。
種子廃止法は、主要農産物の育種に民間企業を参入させることが政府の狙いでした。しかしこの廃止により「遺伝子組み換え農産物が食卓を占領する」と、マスコミが消費者の不安を煽ったのです。日本では「遺伝子組み換え食品」への抵抗が強いため、この主張がSNSで拡散されました。
本来、種苗改正法と遺伝子組み換え食品に直接的因果関係はありません。しかしこの2つはなぜか結び付けられてしまっているのです。マスコミに不安を煽られ、冷静な判断ができなくなっているというのは、グリホサートの風評被害ともどこか通じるところがあります。
過去に海外流出した日本の農産物の例
シャインマスカット以外にも、多くの農産物が海外に流出しています。例えばいちごの「とちおとめ」「レッドパール」「章姫」「紅ほっぺ」。さくらんぼの「紅秀峰」など。すでに中国や韓国への流出が確認されています。最近ではさつまいもの「紅はるか」が韓国で無断栽培され、すでに広く流通していることが明らかになりました。
中国では公的機関が関与して産地化した品種もあると見られています。シャインマスカットは「陽光玫瑰(バラ)」という中国名ですっかり定着。青森県のりんごの「千雪」、愛媛県の「柑橘」「紅まどんな」なども流出後、産地化してしまっています。
改正後の現在の農産物は
さきごろ農水省は、シャインマスカットの中国への流出による経済損失は、年間100億円に上るという試算をまとめました。改正種苗法が昨年4月から施工されていますが、時すでに遅かったようです。シャインマスカットだけでなく、とちおとめなどのいちごも5年間で200億円以上の損失が出ています。
思い出されるのは一昨年の4月末、柴咲コウがツイッターで種苗法の改正反対を唱えたことでししょう。その影響力は大きく、ツイートから20日後に与党は国会での改正案成立を見送ってしまいました。しかし、その後の種苗流出による日本の損失が莫大であったことは明白です。改正により規制がかかり、これ以上傷口が広がらないことを祈っています。
改正種苗法により守られることを願う
以前の種苗法では、海外流出への規制がかかっていませんでした。結果として、日本の優秀な種苗は中国や韓国により盗まれ、数千億円にも上る損失を出してしまったのです。改正種苗法により、大切な日本の優良品種が守られることを願います。