日本だけじゃない、世界中で起こっている卵の価格高騰
円安や原材料費の高騰で続いている、値上げラッシュ。これまで卵は「物価の優等生」と呼ばれ、インフレや自然災害が起こっても小売価格があまり変わりませんでした。しかし2022年の秋以降、卵の価格は急上昇しています。
「JA全農たまご」によると、4月10日午前9時の発表で、東京地区におけるMサイズ鶏卵の平均卸売価格は、1キロあたり350円でした。これは1年前の4月11日205円と比べると約1.7倍です。昨今の値上がりを受け、大手外食企業28社は卵メニューの休止・休売に踏み切りました。
しかし、アメリカでの価格高騰はこれの比ではありません。2022年1月の時点で1ドル90セントだった卵の価格は、2023年1月には約2.5倍の4ドル80セント(約630円)まで上りました。あまりの高騰に、国境沿いのサンディエゴでは、物価の安いメキシコから卵を密輸するという事態も起きています。
値上がりの原因は、世界的な飼料代の高騰と鳥インフルエンザの感染拡大
なぜ卵の価格は上がってしまったのか
卵の価格高騰の原因は、大きく分けて2つあります。世界的な飼料代の高騰と、鳥インフルエンザの感染拡大です。
ニワトリの飼料には、穀物やトウモロコシが配合されています。しかし、穀物の主な生産国であるロシアとウクライナが戦争に入り、両国からの輸出量が激減しました。またそれ以外にも、南米産トウモロコシの不作、そして中国における配合飼料の需要急増も価格高騰の原因と言われています。卵生産にかかるコストの約6割を飼料代が占めるため、飼料代の高騰は卵の値上がりに直結してしまうのです。
そして追い打ちをかけているのが、鳥インフルエンザです。2022年の冬、日本国内では25道県で鳥インフルエンザが76件発生し、多くのニワトリが殺処分されました。その数は、1,478万羽と全国の飼養羽数の約1割に達しています。一度発生すると、その農場だけでなく、周辺半径10km以内の農場は運搬制限区域に指定され、卵の出荷が制限されてしまいます。卵を産むニワトリそのものの個体数だけでなく、流通数も減少してしまったため、価格高騰につながりました。
「これ以上叩かないで!」卵の値上がりに対する生産者の声
かつては特売品として並び、庶民の味方だった卵の価格高騰は、家計にとって痛手です。消費者の不満は募りますが、一方で以前生産者側の悲鳴がSNSで拡散され、注目を集めました。
卵は薄利多売で、養鶏場が得る利益は卵1パックあたり2%ほどです。それにもかかわらず、価格競争が激化して、卵は安価なイメージが定着してしまいました。大手の生産者ほど有利となり、小・中規模の生産者は収支が合わず、競争に敗北していきます。その結果、平成初期には1万ほどあった養鶏場は、1,810戸(令和4年2月1日時点)まで減少しました。
さらに、鳥インフルエンザが発生すると、約1年間は養鶏場の売上がゼロになると、生産者は話しています。殺処分後は、消毒・検査ののち、異常がないか約3ヵ月のテスト期間が設けられます。新しいヒナを受け入れるにしても、生き物なのですぐに手配できません。さらにヒナが卵を産めるようになるまで、少なくとも200日は成育に要するので、約1年近くも卵を出荷できない状態が続くのです。
卵が買えないならニワトリを飼おう!アメリカで広がる節約術とは?
アメリカならではの節約術。卵が買えないならニワトリを飼おう!
鳥インフルエンザの発生は、日本だけではありません。アメリカ農務省によると2022年2月以降、1年間で約5,860万羽(2023年3月6日時点)が殺処分されました。また、ペルーやコロンビアなど南米にまで感染が広がっています。
そんな中、アメリカでは自宅でニワトリを飼い、卵を自給自足する人が増えているようです。飼育キットは、ニワトリ2羽と専用小屋のセット(1ヵ月の飼料付き)で、600ドルで販売されています。ヒナから育てる場合は、屋内向けの小屋とヒーターがついて160ドルです。購入者はコロナ禍以前と比べて約2倍まで増えましたが、卵の高騰が始まった2022年は前年比でさらに2倍売れました。飼料代が高騰しているとはいえ、ある程度の数を飼育できれば家計の助けになるようです。
ニワトリ1羽が産卵できる数は、1日あたり1個程度です。また5日間卵を産み続けた後、1~2日は休まなければいけません。そのため家族4人が毎日卵を食べるとなると、最低5羽は飼育しなければいけないでしょう。広い庭付きの家が多いアメリカならではの節約術で、日本で実践するのは難しそうです。
卵を買って生産者を応援しよう
世界的な感染拡大とインフレで、卵の価格高騰は当面続くと考えられます。しかし生産者側の苦労とこれまでの努力を考えると、買い控えるのはナンセンス。家計に無理のない程度に購入して、生産者を応援しましょう。