冬が旬のりんご、その長い歴史
りんごが最初に栽培されたのは新石器時代と考えられています。現在のトルコにあたる場所では、8000年程前の炭化したりんごが発掘されており、最初は野生種のりんごの採集からはじまり、約4,000年前にはりんごの栽培がされていた形跡が発見されています。エジプトのナイル川デルタ地帯には、紀元前1300年頃の果樹園の跡が発見されています。さらにギリシャ時代にはりんごの栽培種と野生種を区別し、接ぎ木で繁殖させる方法が書かれた書物が存在しました。ローマ時代には、なんと様々なりんごの品種に関する本が出版されています。
16~17世紀ごろにはヨーロッパ各地でりんご栽培が広ましました。その後アメリカに伝わり、多くの品種改良が行われました。そしてアメリカで品種改良された品種が日本に持ち込まれ、現在の日本の品種の基になっていると考えられます。日本でのりんご栽培が本格的にスタートしたのは1871年のこと。北海道開拓使次官がアメリカから75品種の苗木を持ち帰ったことが始まりとされています。日本でのりんご栽培の開始は世界的にはかなり遅いといえます。
長い歴史を経て品種改良によって種類が増えたりんご
りんごの品種改良は、おしべから採った花粉を別の品種のめしべに人為的に付着させる「交雑育種」という方法が行われています。交配して生まれた果実から採った種子を植え付け、生えてきた小さな木を育て、その実生や果実の形・色・味・貯蔵力、木の性質や病害虫に対する強さや実際の栽培のしやすさなど優秀なものを選び、さらにその中から選ばれた候補を何年も試験栽培したのち、新品種として認められ、名前が付けられて登録となります。
このように、りんごの育種は、気が遠くなるような長い時間と根気がいる作業の繰り返しです。「ふじ」を生んだりんごの新品種の育種試験は、1939年から開始されました。幾多の苦労を超え、国内生産量ナンバーワンとなった「ふじ」は誕生まで23年の月日を要しました。こうして農家の先人たちの苦難の歴史の上に、今日の豊かなりんごの種類の流通が実現しているのです。
たくさんあるりんごの品種改良例
りんごの品種の数は膨大で、世界で約15,000種、日本では約2,000種類が栽培されています。多くの改良品種がありますが、現在人気の高い数種をご紹介します。
- つがる(両親:ゴールデンデリシャス×紅玉)
青森県りんご試験場が育成し、1975年に品種登録されました。果皮には紅色の他に鮮やかな紅色の縞が入り、甘みが強く酸味はほとんど感じません。
- きおう(両親:王林×千秋)
岩手県園芸試験場(現・岩手県農業研究センター)が育成し、1994年に品種登録されました。果皮は黄色で光沢があり、甘みと酸味のバランスが良いりんごです。
- 紅玉(両親:自然交雑実生)
アメリカ原産で、1871年に開拓使が導入しました。果皮は鮮やかな濃い紅色で、甘酸っぱさが魅力。ジュースやお菓子、料理用として人気の高い品種です。
- 陸奥(両親:ゴールデンデリシャス×印度)
青森県苹果試験場(現・青森県産業技術センターりんご研究所)が育成し、1949年に品種登録されました。果皮は袋をかけないで栽培すると緑黄色になり、袋をかけると紅色になります。果肉は硬めで香りもよく、加工にも適しています。
品種改良のメリットとデメリット
品種改良とは、言葉の通り「何らかの方法によって、農産物の品種の性質を改良する」ことを指します。代表的な品種改良としては、交配や遺伝子組み換えなどが挙げられます。現在、市場に流通している食材の大半が品種改良によって生み出されたものです。度重なる品種改良によって、大量生産が可能となり、さまざまな食味が生まれたことは確かです。栽培される土地に合わせて、多様な形態の品種も生み出されています。
品種改良によって、私たちは食料を安定して、安価で手に入れられるようになりました。しかし、品種改良によって生み出された食材には、野生種や古代種と比較してグリアジンの含有量が高いといわれる小麦など、栄養素が従来とは変化することもあります。また、食品の安全性や健康的な食事を求める人が増えている中、在来種、固定種と呼ばれる存在の需要が高まってきているのも事実です。
りんごを食べて冬のビタミン不足を補おう
「1日1個のリンゴで医者いらず」という、イギリスのウエールズ地方のことわざでも有名なりんご。豊富な食物繊維やビタミン、ミネラル、フラボノイドの一種であるクェルセチンを含んでいて、ダイエットや心血管系疾患、がんに対する効果まで報告されています。今が旬の冬のりんごを食べて、冬のビタミン不足を防ぎましょう。