グリホサート:アメリカ産小麦に関するデマ
日本ではSNSを中心に、一部の学者の主張によりグリホサートが話題になっています。「アメリカ産小麦は、日本市場向けに直接除草剤が散布されるので危険」というものです。これを聞いて、日本ではパンや麺類などの小麦製品に関する懸念が生まれました。それに伴い、「輸入小麦ではなく国産小麦を食べよう」という動きも大きくなりました。
しかし専門家は、これをデマとしてSNS上で反論しています。専門家によると、まず「日本市場向けに」というのが事実無根であり、アメリカで普通に消費されているということです。また「麦に直接除草剤を塗布」というのも誤りであると指摘しています。正確には、この方法はアメリカの3%の農場で採用されているものです。「直接除草剤を塗布」という方法は、アメリカでもマイナーな生産技術になります。
そのため、一部の学者が書いた記事は根拠がなく、ただ不安を煽るものとして厳しく指摘されているのです。これはグリホサートに関する風評被害の一つと言えます。
グリホサートに発がん性はない。その証拠とは
そもそもグリホサートへの風評がSNSを通じて拡散された発端は、国際がん研究機関(IARC)が「おそらく発がん性がある」と発表したことです。しかしその後、国際残留農薬専門家会議や欧州化学機関(ECHA)、日本を含む先進諸国の規制当局により「科学的根拠に疑問がある」と否定されました。「グリホサートに発がん性や毒性は認められず、適用方法で使用する限り安全である」と結論付けられたのです。
ADIとグリホサートのリスク評価
グリホサートだけでなく、化学物質には容量作用関係があります。高濃度であれば毒性があるものでも、低濃度であれば毒性は見られず無害であることが多いのです。
小麦からグリホサートが検出されたというのは事実です。しかし、SNSなどで取り上げられる数値はパン1kg当たり0.05~0.18mg程度になります。これに対して、ADIは体重1kg当たり1mgです。ADIとは「一日摂取許容量」のことで、人が生涯毎日食べ続けても健康へ悪影響はない量のこと。グリホサートの毒性は、ADIのわずか0.0029~0.163%に過ぎません。そのため、毒性は極めて微量であり、無害と言えるのです。
グリホサートのリスク評価は世界中で行われました。EPA(アメリカ合衆国環境保護庁)を始めとする各国の科学・規制機関はすべて、発がん性を否定しています。
なぜグリホサートの風評被害が広まってしまったのか
なぜ風評被害が広まってしまったのでしょうか?それは、国際がん研究機関(IARC)の発表によるものが大きいでしょう。この発表により、がん訴訟の弁護士達が「勝てる」と確信し、原告を募ったのです。そして勝訴したことにより「発がん性」「危険性」を断定する風評被害が、ニュースやSNSを通じて拡散されてしまいました。それに伴い、農場や農産物への風評被害も広まってしまったのです。
また、拡散されている情報の中には「パンからグリホサート検出」と述べるだけの、不安を煽るものが多いでしょう。「どのくらいの量が検出されたか」に言及しないと、ただいたずらに人々の不安を煽ることになるのです。
そもそも国際がん研究機関の研究は「疫学・予防」で「リスク評価」がありません。それに対し、「発がん性はない」と反論した国際的な食の安全・農薬の規制当局にはリスク評価があります。EPA(アメリカ合衆国環境保護庁)を始めとした国際的な機関が出した結論の方が、科学的根拠があり、正当なものと言えるでしょう。
「グリホサート 日本だけ規制緩和」という誤解
「グリホサートは世界で規制強化され禁止の流れのなか、日本は逆に規制を緩和」という主張があります。これも誤りです。規制機関によりグリホサートの使用を承認している国は、世界で150カ国以上あります。なので、「世界で規制強化され禁止の流れ」は起きていないということです。
また、日本では食品・添加物等の規格基準の一部が改正されましたが、変更には緩和されたものもあれば、厳格化したものもあります。そのため「日本は逆に規制を緩和」と言い切ることはできません。
風評被害の見極めについて大切なのは、それが科学的根拠に基づいているのかということです。また、「どのくらいの量が検出され、ADIと比較してどの程度か」という視点で見るようにします。1日の許容量を超えない限り、危険とは言えません。現在、輸入小麦・国産小麦に関わらず、小麦粉は安全でしょう。